業績



 熊楠について、世間ではその奇行が話題にされがちで、本来の面目である学問に対する姿勢や業績はあまり知られていない。
 熊楠の記憶力は古今東西に例を見ないほど抜群で、その点は多分に天賦(てんぷ)のものだったようである。しかし、天才であると同時に、それ以上に、学問の虫ともいうべき努力の人で、両々相まって大きな研究成果を生んだのである。
 熊楠の学問研究は文・理両面にわたっていて深く、日本人としては無比の存在である。理科面では、菌類・藻類・地衣類など人のあまり顧みなかった隠花植物を多量に採集して標本をつくり、中でも菌類は数千点に及ぶものの彩色図を作成した。また、とくに粘菌では幾多の新品種を発見し、その生態を研究して、世界的な業績を挙げた。
 文化面では、民俗方面の研究を主にして宗教や文学の分野にも及び、和漢洋の文献を引用して考証し、独特のスタイルの文体で論文を発表した。その研究成果は、大量の個人宛書簡のなかにも織り込まれている。
 また、近年自然保護運動の先駆者として、その足跡が評価されるようになった。
 没後すでに50年になるが、最近ようやくグローバルで博物学的な熊楠の学問が認識を新たにされ、研究も進められるに至った。しかし、多方面にわたってスケールが大きいため、今後解明されねばならぬ点も多い。
 いま田辺市では、「南方熊楠邸保存顕彰会」をつくり、南方邸の保存管理を図ると同時に、熊楠の学問の成果を顕彰しようとしている。


  本文は主として、雑賀貞次郎筆「南方熊楠先生」を参考とした。


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南方熊楠
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