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洋彰庵版 養生訓巻第三 飲食上

洋彰庵 利吉



1元気は生命のもと、飲食は生命の養い

人の身体は元気を天地から受けて発生した。しかし飲食という養分がないと生きてはゆけない。 元気は生命の根本である。飲食は生命の養分である。半日でも欠くことの出来ない大切なものである。しかるに、飲食は人の大欲であって、好みに任せて食べ過ぎると、脾胃を傷つけて諸病をひき起こし、命を失う。五臓が生ずるのは腎からである。生じた後は脾胃が中心になる。飲食をすると脾胃がこれを消化し、その精液を臓腑(現代解釈では栄養分を諸臓器)に送り出す。内臓が脾胃に養われることは、草木が土気によって成長するようなものである。事実、養生の道は、脾胃を整えることで、これは人の身の第一の保養である。古人も「飲食を適度にして身体を養う」と言っている。


2病いは口から入る

人は毎日飲食をするが、たえず慎んで欲を自制しなければ度を過ごしてしまいがちで、度を越せば結果、病気になる。古人は、「禍は口よりいで、病いは口より入」、という。口から出入りするものは、つねに注意しなければならない。


3聖人の飲食法

『論語』の【郷党篇】に述べられた聖人の飲食の法は養生の要点である。聖人が病気に注意されたことはここに詳しく記載されてある。郷党篇の聖人の飲食法は養生法として守るべきであろう。


4暖きものを食し、冷飲・熱飲を避けよ

飯はよく熟し、中まで炊飯されたものがよい。堅く粘っこい飯は悪い。温かいうちに食べるのがよい。吸物は熱いうちがよい。酒は暑い夏でも温めて飲むのがよい。冷酒は脾胃を悪くする。寒い冬でも熱燗はよくない。気をのぼせて血液を減らすからである。


5飯の炊き方(種々の炊飯方法)

飯の炊き方もいろいろある。たきぼし(普通に炊く)は壮健な人によく、ふたたびいい(飯のうえに湯を入れ二度炊きする)は積聚(胃けいれん)で気の停滞している人によい。 またゆとりいい(水を多くして炊く)は脾胃の弱いひとによいのである。粘って糊のようになった飯は気を塞いでよくない。おこわは消化しにくい。新米の飯は性(成分)が強くて虚弱な人には悪い。ことに早稲(わせ)は気を動揺させるので病人にはよくない。晩稲(おくて)は性分が軽いからよい。


6淡薄なるものを食べよ、肉は少量がよい

すべての食事は薄味のものを好むのがよい。味濃厚で脂っこいものの多食はいけない。生ものや冷えたもの、そして堅いものは禁物である。吸物は一椀でよく、肉も一品でよい。副食は一、二品にとどめるのがよい。肉を二品(沢山)食べてもいけない。生肉を続けて食べてはいけない。吸物に肉を入れたなら、副食には肉類なしのほうががよい。胃に滞りやすいからである。


7飲食は共に控えめにせよ

飲食は飢渇にならないようにする行為であるから、飢渇感がなくなれば、そのうえに飲食してはいけない。飲食の欲を制することのできない人は義理を忘れる。いわゆる口腹の人と呼ばれ卑しまれる。 食べ過ぎに薬を用いて消化させると、胃気は薬力に影響されて、先に発生した生来の和気を損なってしまう。注意しなければならない。飲食をするときにはよく考えて節度を守ることだ。好物で、おいしいものに出あったら、まず戒めて、度がすぎないように自制することが大切である。 精神力を用いないと欲には勝てないものである。欲を克つには剛の一字を実行することだ。病気を恐れるには「怯い」のがよい。怯(つたな)いというのは臆病の意味である。


8満腹をさける、飽食をさける

珍美な食べ物も程々でやめるのがよい。腹いっぱい食べると後で禍のもとになる。すこしの我慢であとの憂いは生じない。程々に飲食し美味であることがわかれば、飽きるまで多く飲食して味を知るのと同じであるが、後の胃腸障害を考えれば程々がよい。万事は十分過ぎると、後で禍となるものだ。 とくに飲食は満腹を避けること。最初から慎しめば、あとの禍はない。


9五味偏勝をさける

五味偏勝という言葉は、同じ味のものを食べ過ぎることをいう。 甘いものを多くとると、腹部膨満し痛む。辛いものを食べ過ぎると、気が上って減る、そして瘡(湿疹など)ができ視力も悪くなる。塩辛い物を多く摂取すると血が乾き、喉が渇いて、湯水を多く飲む。湿を生じて、脾胃をいためる。苦いものが多すぎると脾胃の生気を損じる。酸っぱいものが多いと気が萎縮してしまう。五味をまんべんなく適量食べれば、病気にならない。諸肉諸菜、同じものを食べ続けると、それが身体に停滞し、害になる。


10食物の選択(身を養うに益あるものを)

食物は身体を養うためのものである。身体を養うべきものにて、かえって身体を損ねてはならない。故に食物は、養うための理にかなった性(成分)をもち、身体を養うのに益なるものをいつも選択して食べなければならない。益がなく害になるようなものは、いかに美味とて食べてはならない。身体を温めて、しかも気を塞がないものには益がある。生冷で瀉下したり、気をふさぎ、腹がはるもの、また辛くて熱いものには、みな害がある。


11飯の多く食すは不可である


(過食を避ける心がけ) 飯はよく人を養うけれども、同時によく人を害するものである。だから飯はとくに多食してはいけない。つねに適度の分量を定めておかなければならない。飯を多く食べると、脾胃をいため、元気を塞いでしまう。ほかのものを食べすぎるよりも、飯の過食は消化しにくくて大害になる。 他家を訪問し、ご馳走になるとき、箸を付けないと失礼なようならば、飯を普通時の半分にして、副食物を少しずつ戴くのがよい。こうすれば、副食がやや多くても調和がとれて食物に身体がいためられない。飯をいつものように食べて、また魚鳥などの副食物を多く食べると、かならず身体に障る。飯のあとに、茶菓子といって餠やだんごなどを食べ、後段(二の膳)として麺類など食べると、満腹して気をふさぎ食物のために身体をいためる。これは日頃の分量をすぎたからである。茶菓子や二の膳はいわゆる予定外の食物であるから、少し食べればよい。度をすごしてはならない。もし食後に少し食べようと思うならば、あらかじめ飯を減らしておくことだ。


12口腹の欲をおさえる

飲食のことばかりいう人は卑しまれる。孟子もいうように、小さいものを養って、大きいものを忘れるためである、と。すなわち口腹の欲にひかれて道理を忘れ、ただ飲み食って満腹することばかりをのぞんで、ついには腹がはって痛み、病気になる。また酒に酔って酒乱になるのはもっとも卑しむべきことである。


13深更(夜更けて)夜食すべからず

夜食をする習慣のひとは、日が暮れてからまもなく食べるがよい。夜更になって食してはいけない。酒食の気がよく循環し、消化したあとに寝るのがよい。消化しないままに早く寝ると病気になる。 夜食をしないひとでも、夕食後に早く寝てはいけない。早く寝ると食気がとどこおり病気になる。 夜は活動するときではない。故に飲食しないで少しは空腹でいても身体に害はない。やむなく夜食をしなければならないときは、なるべく早く、しかも少し食べるがよい。夜酒は飲まないがよい。もし飲むとしても夜食と同様に早晩で少量がよいのはもちろんである。


14食と栄養と(控えすぎと思う程で丁度)

俗諺に食を制限しすぎると栄養不足で痩せて衰えると言う。これは養生を知らない人の言うことである。欲が多いのは人間の本性であるから、制限しすぎると思われるくらいが(丁度よいほどになる)適量である。


15適量を守る

好物に巡りあったとき、また空腹時に美味で珍しいものが目の前にある時、品多く目の前にならべられた時でも、適量をすごさないように自制を心がけなければならない。


16腹七、八分の飲食で

飲食物に出あうと、食べたいという心が強くなって食べすぎても気づかないのは、いわゆる一般の人びとの習性である。酒、食、茶、湯など適量と思うまえに、腹七、八分の控えめにして、いま少し不足だと思われるときにやめるのがよい。飲食を済ませてから必ず腹十分になるものだ。食べているときに十分だと思うほど食べると、食後はかならず腹がふくれすぎて病気になるであろう。


17過酒食とくすりで腹中を戦場としない

酒食し過ぎて腹痛おこれば、酒食を消し去る強い薬を用いないと酒食を消化できないものだ。たとえれば、敵軍がわが領内に乱入し戦いをいどみ、攻め破ろうとした。そのときには強兵を出して防戦し、勝つために味方を多く討死させてしまうようなものである。さながら、薬を用いて食物を消 化させるのは、自分の腹中を敵味方の戦場とするに似ている。飲食した酒食が敵と化して、わが腹の中を攻め破るのみではなく、自分が用いた強い薬も、身を攻撃するから元気も減ってしまう。敵も味方もわが腹中で乱戦し、元気を減らすこと甚だしい。敵を自分の領内に引きこんで戦うよりは、領外で防ぎ、侵入させないことが最上策である。酒食を控えめにすれば、敵にはならない。強い薬を用いて我が腹中を敵と味方の合戦場にすることは、胃の気をそこなってしまう。


18食す時の五思(益軒の創作説)

ものを食べるときに考えなければならないことが五つある。それを五思という。
  一つは、この食は誰から与えられたのかを思わなければならない。幼いときは父によって与えられ、年が長じてからは殿様からの禄によるのである。恩を忘れてはいけない。またある場合には、君主や父からではなく、兄弟、親族、あるいは他人から養われることもあろう。これもまたその食を与えて下さったひとを思って、その恵みを忘れてはならない。農工商の自力で飲食できる者もまた国の恩恵を思わなければならない。

  二つ目は、この食は農民の苦労によって作り出されたことを思わなければならない。自分で耕作せず、安楽にしていながら養いを受けることができる。その楽しみを思わなければならない。

  三つ目は、自分には才能も徳もなく、さらには正しい行いもなく、君主を助け、人民を治める功労もないのに、美味なるものを食べられるのは、幸せであると思わなければならない。

  四つ目は、世間には自分より貧しいひとが多く、その民は糟(かす)や糠(ぬか)でも有難く食べている。ときにはそれすら食べられずに飢え死にする者もいるのに、自分は上等なおいしい食事を十分に食べて飢餓の心配はない。これは大きな幸福と思わなければならない。

  五つ目は、先祖の食生活を考えてみることだ。昔はまだ五穀(米、麦、粟、豆、黍)はなく、草木の実と根や葉を食べながら飢えをまぬがれていた。五穀が収穫されるようになっても、まだ火を用いて食物を調理する方法を知らなかった。釜や甑(のちの蒸籠)もなく、食べものを煮て食べず、生食したので、味はなく胃腸をそこなうこともあったのであろう。

やわらかい白飯、吸物、惣菜があって朝夕の二回に十分に食べられ、そのうえ酒があって心を楽しませ、血気をたすけている飲食が出来るのはとても幸せであると思わなければならない。
朝夕食のたびに、この五思の中の一つ二つ、思い起こしてみよ。そうすれば、日々の楽しみもまたその中にあると気づくであろう。これは私の私見(臆説)であってここに記したまでである。
僧家には食事の五観(『釈氏要覧』にある)というものがある。私見(五思)とは別である。


19夕食は軽く

夕食は朝食よりも胃腸に停滞し、消化しにくい。だから夕食は少ないほうがよい。軽い薄味のものを食べるがよい。夕食に副食物を多く食べるのは禁物である。魚や鳥など味が濃く、脂肪が多いものは夕食にはわるい。菜類も、山芋、人参、白菜、芋、くわい、などの品は停滞しやすく気をふさぐので、夕に多く食べてはいけない。食べなければもっとよい。


20食べてはいけない物

すえた臭いのする飯、古い魚、ふやけた肉、色香のよくないもの、煮てから長く時間のたったものは食べてはならない。また朝夕の食事のほかに間食することはきわめてわるい。 また早すぎて熟していないもの、あるいはまだ成熟していないものの根を掘り出してめだちを食べることや、時期がすぎて盛りを失ったものなどは、いわゆる時ならぬものであるから食すべきでない。 これは『論語』にある言葉で、聖人の食さなかった物である。聖人は身を慎まれてもっぱら養生されたのである。模範とすべきであろう。また肉を多く食べても飯の気には勝てないとも述べている。肉を多く食べることはいけない。食事は飯を中心とする、どんな食材も飯より多く食べないほうがよい。


21副食は少量でよい

飲食物で、飯を十分に食べないと飢えをいやせない。吸物は飯をやわらげるだけである。肉は飽くほど食べなくても不足しない。少し食べて食を増進し、気を養わなければならない。野菜は穀物や肉類の不足をおぎなって消化を助ける。すべて食べる理由があるが、食べすぎることはいけない。


22穀物と肉類では肉を控えよ

ひとの身体は、元気を根本としている。穀物の養分によって元気は生成しつづける。穀物や肉類をもって元気を助けなければならない。それらを食べすぎて元気をそこなってはならない。元気が穀肉に克てば長寿、穀肉が元気に克つと短命になる。古人は「穀は肉にかつべし、肉は穀にかたしむべからず」という。


23老人や虚弱者は飲食の量を慎む

脾胃の虚弱なひと、とくに老人は飲食によって病気になりやすい。美味な飲食に出あったならばとくに我慢して自制すること。度をすごしてはならない。心の弱いひとは欲にうち克つことができない。心を強くして欲に克たなければならない。


24宴の飲食も控えめにする

友人と会食をするに、美味珍味にむかうと、思わず食べ過ぎてしまう。飲食を満足するまで十分にとるのは不幸のもとになる。「花は半開に見、酒は微酔にのむ」と言うように実行するのがよい。興にのって戒を忘れてはならない。自制なく欲のおもむくままにすると不幸になる。楽しみの絶頂は悲劇の始まりとなることが多い。


25持病と食べもの

すべての宿疾(持病)を起こすものを決して食べてはいけない。食べてその場で害になるものがあり、また時を経て害になるものもある。即時に害にならないからといって食べてはならない。


26食当たりと絶食

食あたりのときは絶食がよい。あるいは、食べる量を日頃の半分、または三分の二にまで減じる。 食傷には早く入浴するとよい。魚や鳥の肉、魚や鳥の干塩(干物)、生野菜、油っこいもの、ねばっこいもの、堅いもの、もちやだんご、そして菓子類などを食べてはいけない。


27消化不良と朝食ぬき

朝食がまだ十分に消化しないうちは、昼食をしてはならない。点心(茶の子、茶菓子)などを食べてはいけない。昼食が消化しなければ夜食をしてはいけない。昨夜食べた食物が停滞したら、朝食をぬくがよい。もしくは、半減し、酒や肉を絶つこと。
とにかく食傷(あたり)を治すには絶食がもっともよい。絶食すれば軽い食傷なら薬を使わず治癒する。養生の道を心得ないひと、とくに婦人は知識がないので、食が停滞の病気にも早く食事をすすめるから病気が重くなる。ねばっこい米湯などはことに害になる。むやみにすすめてはならない。病気の症状によって、とくに食あたりの病人は邪気が停滞し腹満であるから、一、二日絶食してもさしたる害はない。


28煮もの調理の消化しやすい時期

煮すぎて味を失ったものと、まだよく煮えていないものを食べてはいけない。魚を煮るときはほどよく煮ることである。(煮ゑざる、煮すぎてにえばなを失う)を食すのはよくない。蒸した魚はそれが長くなっても煮えたての味を失わない。魚を煮るのに水を多くしては味を損なう。これは李笠翁(李漁、清初の学者)が『閑情寓奇』に書いている。


29(昔の)調味料のこと

聖人は食にあった醤(あえしお=調味料)がないと召し上がらなかったという。これは養生の道である。醤というのはひしお(もろみのようなもの)のことではなく、食物にくわえる調味料で、具体的には塩、酒、醤油、酢、蓼、生姜、わさび、胡椒、芥子、山椒などそれぞれの食物にあう調味料である。これらはその食物の毒を制する。ただその味がよくなるからというばかりではない。


30中年以降の食事量

飲食の欲は朝夕に起こるので、誰でも誤ることが多い。まして富貴のひとは美食するゆえに、度をこしやすい。とくに注意しなければならない。中年からのちは元気がへって、男女の色欲は次第に弱まるけれども、飲食の欲は衰えないものだ。老人は脾気が弱い。それゆえに飲食にて傷つくことが多い。老人が病気になって急死するのは、ほとんどの場合は食傷(食あたり)である。大いに慎むべきである。


31新鮮な物を食べよ

すべての食物は、みな新鮮な生気のあるものを食べるのがよい。古くなって香りもわるく、色つやも味も変わったものは、みな気をふさいで、とどこおりやすい。食べてはいけない。


32好物を少量とる

好物は脾胃が好むものであるから身体の補になる。李笠翁も「本性甚だ好ける物は、薬にあつ(相当する)べし」という。理にかなった言葉であるが、好物といって食べすぎると、嫌いなものを少し食べるよりもわるい。好物を少し食べるならば身体を補う効果がある。


33五つの好み

清新なもの、香りがよいもの、もろくてやわらかいもの、味のかるいもの、性のよいもの、これら五つのものを好んで食べるのがよい。益こそあれ害はない。これらに反するものは食べてはならぬ。これは中国の書物にも記されている。


34衰病虚弱者と栄養

病気で虚弱なひとは、魚鳥の肉を味よくして、少しずつ食べるのがよい。参ぎ(薬用人参)で栄養をおぎなうよりもよい。性のよい生魚をよく煮て、あぶって食べるのがよい。塩につけて一両日すぎたものがもっともよい。長くなったものは味がわるくなる。しかも体内に滞りやすい。生魚の肉をみそ(味噌)につけたものをあぶったり煮たりして食べるのもよい。でもこれらは、暑い夏は長くはもたないから要注意。


35胃腸の弱いひとと生魚

脾虚のひと(胃腸の弱いひと)は生魚をあぶって食べるのがよい。煮たものよりは消化が良いし、つかえない。小さい魚は煮て食べるのがよく、大きな生魚はあぶって食べるか、あるいは煎酒(古くなった酒に鰹節、煎り塩、醤油などをいれて煮つめたもの)を熱くして、生姜わさびなどをくわえて、汁によくひたして食べると害がない。


36魚・野菜の調理方法

大きな魚は小魚よりも脂肪が多くて消化しにくい。脾虚のひとは多食してはならない。よく消化するためには、薄く切って食べる。大きな鯉や鮒を大きな切身にし、あるいは丸煮にすると気をふさいでしまう。薄く切ることだ。大根、人参、南瓜、白菜なども大きく厚く切ったものは、消化しにくいので薄く切って煮なければならない。


37生魚の味つけ

生魚は味をよく整え食べると、生気があるので、早く消化してとどこおらない。煮すぎたり、干して脂肪の多い肉、あるいは長く塩づけにした肉は、みな生気を失った陰物である。だから滞りやすい。こうした道理を知らないで、生魚よりも塩づけをよいと考えてはいけない。


38脂肪の多い魚はいけない

ひどく腥(なまぐさ)く脂肪の多い魚は食べてはいけない。魚の内臓は脂が多い。もちろん食べてはいけない。なしもの(塩から)はとくに消化がわるく、しかも痰を生じるのである。


39さし身となますと鮨

さし身や鱠(薄切りの魚肉を酢にひたしたもの)は体質によってはよくない人もあるので、ひかえめにするがよい。酢をとりすぎてはいけない。冷え症のひとは温めて食べること。鮓(鮨)は老人や病人は食べてはいけない。消化しにくいからである。なかでも未熟なものや熟しすぎて日のたったものは食べてはいけない。海老の鮨は毒がある。うなぎ鮨は消化しにくい。食べてはいけない。大きな鳥 の皮や魚の皮の厚いものは、脂肪が多い。消化しにくいから食べてはならない。


40肉類はひかえめに

さまざまな獣肉を食べることは日本人に適当ではない。日本人は胃腸の弱い者が多いからである。とにかく多く食べてはいけない。烏賊(いか)や章魚(たこ)なども同様で多く食べてはいけないのである。消化しにくい。鶏卵や鴨卵などの丸煮は気をふさぐのでよくない。俗に言う「ふはふは」(スクランブル状?)という料理にして食べるのがよい。肉でも野菜でも大きく切ったもの、また丸煮にしたものはみな気をふさいでつかえやすいものである。


41生魚の塩づけ

生魚の新鮮なものに塩を薄くふり、天日にほして一両日すぎて少しあぶり、薄く切って酒にひたして食べる。これは脾にわるくない。日のたったものは消化がわるい。


42味噌の働き

味噌は性(成分)がやわらかで脾胃の働きをおぎなうものである。たまり(味噌の上にたまった液、醤油の一種)や醤油は味噌より性が強い。嘔吐や下痢時にはよくない。酢は多くとってはいけない。脾胃にわるいからである。しかし積聚(胃けいれん)のあるひとは少しはとってもよい。げん醋(濃い酢)を多くとるのは禁物である。


43野菜・菌類・海草の調理方法

脾胃が虚弱で生野菜をさけているひとは、乾菜を煮て食べること。冬になって大根を薄く切って生のまま天日にほす。蓮根、ごぼう、やまのいも、うどの根などは、薄く切って煮てからほす。しいたけ、松露、いわたけ、なども干したほうがよい。松茸は塩づけがよい。ゆうがおは切って塩に一夜つけて、石のおしをかけてからほしたほうがよい。かんぴょうもよい。白芋の茎に熱湯をかけえ天日にほす。これらはすべて胃腸の虚弱者の食物として適当である。
枸杞、五加、ひゆ、菊、蘿も(ちぐさ)、鼓子花の葉は、若葉のうちにとって、煮てほし、それを吸物とするか味噌であえものとして食べるのがよい。菊の花は生で干す。みな虚弱なひとによい。古い葉っぱは堅い。海菜は身体をひやすから老人や弱いひとにはわるい。昆布を多く食べると気をふさいでよくない。


44食い気と調理と栄養

食物の風味が自分の気にいらないものは栄養にはならない。かえって害になる。たとえ自分のために丹精込めて作られた食物でも、自分の心がむかないと食べてはならない。またその味が気にいっても、前に食べたものがまだ十分に消化しないうちに、食欲がなければ食べてはいけない。わざわざ自分の為に調理してくれたと、義務で食べることはよくない。使っている召使いなどに食べさせると、自分が食べないでも気分が良く心地よいものである。ひとに招かれて宴席にのぞんでも、気のすすまないものを食べないのがよい。またどんなに味が気にいっても多くを食べることは最もわるい。


45節飲節食

飲食をひかえめに我慢することは、そんなに長い時間ではない。飲食する少しの時間に欲を堪えればよい。控える分量も、飯はただ二口三口、副食はわずかに一、2片だけ、少しの欲をこらえて、食べなければよい。そうすれば害はないのである。酒もまったく同様で、酒豪も少し制限して、飲みすごさないようにすれば害はないのである。


46脾胃の好む十一品目

脾胃(内臓)の嗜好を十分に知って、(内臓の)好物を食べて嫌うものを食べてはならない。 脾胃の好物とは、何をいうのであろうか。以下に11挙げる。
温かいもの、やわらかいもの、よく熟したもの、ねばらないもの、
薄味でかるいもの、煮たてのもの、清潔なもの、新鮮なもの、香りのよいもの、
性(成分)のよいもの、(五味の偏なき)味のかたよらないもの
などはみな脾胃の好物である。これらは脾胃の養分になる。もちろん度をすごさないように食べるがよい。


47脾胃の嫌う十三品目

脾胃の嫌うものを、以下に13挙げた。
生もの、つめたいもの、堅いもの、ねばっこいもの、不潔なもの、
くさいもの、生煮えのもの、煮すぎて香りをなくしたもの、煮てひさしくおいたもの、
果実の未熟なもの、古くなって味をなくしたもの、五味のかたよったもの、
脂肪が多くてくどいもの、
これらはみな脾胃の嫌うものである。これらを食べれば脾胃を悪くする。食べないほうがよい。


48暴飲暴食は胃の気をへらす

食事時でないのに飲食したり過度の酒食、いわゆる暴飲暴食し、しばしば嘔吐や下痢を繰り返していると必ず胃の気減る。冷たいものや性がわるくて病いをひき起こすもので長期に暴飲暴食していると、元気は衰えて短命になる。飲食を慎むことが肝要である。


49三味を少なくする

塩と酢と辛いものと、この三味を多くたべてはいけない。この三味を多く食べてのどが渇いて湯を多く飲むと、湿を生じ、脾をわるくする。湯、茶、吸物などは多く飲んではいけない。 さきほどの三味を食べてひどくのどが渇いたならば、葛の粉か天花粉(キカラスウリの根からとった白色の澱粉)を熱湯に入れて飲み、渇きを癒すのがよい。湯を多く飲みすぎないためである。葛湯は気をふさぐが、やむなく飲むのである。


50酒食のあとの注意

酒食ののちに、酔い、かつ満腹したならば、上をむいて酒食の気を吐き出すがよい。手で顔や腹および腰などをなでて、食気の循環を助けるのがよい。


51食後の運動

若いひとは食後に弓を射たり、槍、太刀の稽古などをしたりして身体を動かし歩行するのがよい。 しかし身体を動かしすぎて過労してはいけない。老人でも自分の体力に応じて少し運動するのがよい。案(おしまずき)によりかかって、一つ所に長く安坐してはいけない。長く安坐すれば、気血がとどこおり、飲食物が消化しにくくなる。


52脾胃弱には餠、だんご、饅頭などは不可

脾胃の弱いひとや老人は消化しにくいから、餠、だんご、饅頭などや冷えて堅くなったものを食べてはいけない。菓子の類はひかえめに食べるがよい。そのときの身体の状態や人によってはひどく害になる。夕食後はとくに食べてはいけない。


53薬酒を飲む

古人は寒月のころ、毎朝、性(成分)のまろやかな薬酒を少し飲み、立春をすぎてからはやめるのがよいという。ひとによってはそれもよいだろう。が、焼酎で抽出した薬酒は飲んではいけない。


54肉類や菓子は少なめに

肉を一きれ食べても、十きれ食べてもその味を知る点では同じであるし、果物でも一つぶ食べても百つぶ食べても味を知ることでは同様であろう。多くを食べて胃腸を損ねるよりも、少しを食べてその美味を知り、身体に害のないほうがはるかにすぐれている。


55水の選択

水は清らかで甘いのを好むべきである。清くなく味のわるい水は使ってはいけない。郷土の水の味によってひとの性質が変わるといわれるくらいであるから、水は大いに選んで使用しなければならない。また悪水が漏れ入った水は飲んではいけない。薬と茶とを煎ずる水は、とくに清らかなものを選ばなければならない。


56天水と雪どけの水と

空から降ってきた雨水は性がよく毒はない。器にとって薬や茶を煎ずるのに使うとよい。雪どけ水は最もよい。雨だれの水は大毒がある。たまり水も飲んではいけない。たまり水が地下を通ってきたものでも同様に飲んではいけない。井戸のそばに汚れたたまり水のないようにしなければならない。それが地下を通って井戸に混入することはきわめてよくないのである。


57熱湯を飲むな

湯は熱いのを冷まして、ほどよき温度で飲むのがよい。沸騰しない半沸の湯を飲むと腹がはるものである。


58小食の効用

食事の量が少ないと脾胃の中にゆとりができて、元気がめぐりやすく、食物が消化しやすくて、飲食したものがすべて身体の養分になる。したがって病気になることが稀で、身体も強くなる。 多食し満腹にすると、元気のめぐるべき道をふさいで、消化しない。だから飲食したものが身体の養いにならない。脾胃にとどこおって元気の道をふさぎ、循環しないで病いになる。甚だしければもだえ死んでしまう。食後に急病になり、あるいは急死するのはこのためである。 大酒、大食するひとは、間違いなく短命である。早くやめなければならぬ。繰り返していうが、老人は胃腸が弱いのであるから、飲食に身を犯されやすい。とにかく度をすごす飲食をしてはならない。畏れて用心すべきである。


59過食と急死

ひとが食後に急死するのは、多くの場合は飲食が過ぎて、満腹して気をふさいでしまうからである。満腹時は、まず生姜に塩を少しくわえて煎じ、それを多く飲ませて、吐かせるのがよい。それから食の滞りを除去し、気の循環をよくする薬を与えるのがよい。 これを脳卒中だと誤解して、蘇合円や延齢丹などの救急薬を飲ませてはいけない。かえって害になる。また少量でも食物を早く与えてはいけない。とくにねばっこい重湯などはよくない。気がますますふさがって死んでしまう。一両日は絶食させてもよい。この病気は食当たりである。人びとはこれを脳卒中に間違えることが多い。食傷に脳卒中の手当てをしてもどうにもならない。


60前の食が消化不良時の食事

腹がへったときや渇いたときに一度に多く飲食すると、満腹して脾胃をそこなって元気を失う。飢渇のときはとくに慎まなければならない。また飲食したものがまだ消化しないのにさらに飲食すれば、滞って害になる。十分に消化してから、食欲が出たならば食べるがよい。こうすると飲食したものはみな身体の養分になる。


61暖かいものをたべる

老人や子供は四季を問わずいつでも温かいものを食べるのがよい。とくに夏期は身体に陰に属するものが内在する。だから若く元気旺盛なひとも温かいものを食べたほうがよい。生ものや冷たいものは食べてはいけない。胃にもたれやすく、下痢を起こしやすい。冷水を多く飲んではいけない。


62冷たいものの飲食を避ける

夏期に瓜類の菓や生野菜を多く食べ、冷たい麺類をしばしば口にし、冷水を多く飲むと、秋になってかならず瘧痢(ぎゃくり=急に発熱し下痢をともなう病)に罹患する。だいだい病気は原因がなくては発生しないものだ。夏に慎んで予防が大切である。


63食後の口内を清潔に

食後には湯茶で口内を数回すすぐのがよい。口の中を清潔にし、歯にはさまったものを取り去る。牙杖(つま楊枝)を使うのはよくない。夜は温かな塩茶をもって口をすすぐがよい。歯根が丈夫になる。口をすすぐための茶の温度は中の下くらいのものがよい。これは詩人蘇東坡の説である。


64他郷での飲食

ひとは他所の土地に行って水や土が変わり、その水土になじまず病いになることがある。そうしたときは、まず豆腐をたべると脾胃がととのいやすい。これは時珍(明末の医者、李時珍)の『食物本草』の注に書いてある。


65山中のひとは長命

山の中のひとは肉食をすることが少ないので、病気にかかりにくく長命である。海辺の魚肉の多い村に住むひとは病気になりやすく短命であると『千金方』に述べている。


66朝粥の効用

朝早く柔らかい粥を温かにして食べると、胃腸によく、身体を温めて、津(唾液)が生ずる。冬期はこれがもっともよいものだ。これは張来(北宋の詩人)の説である。


67香辛料の使い方

生姜、胡椒、山椒、たで、紫蘇、生大根、生ねぎなどは、食べ物の香りを助けて悪臭を取り去り、魚毒をとり除き、食気を盛んにするゆえに、それぞれの食品にあった香料をほどよく加えて毒を殺すのが肝心である。多く食してはいけない。辛いものが多いと気をへらしてのぼせ、血液をかわかしてしまうのである。


68飯の味をよくする食事法

朝夕食事をするたびに、最初の一椀は吸物のみで副食を食べなければ、ご飯本来のおいしさを味わうことができる。あとから五味副食を食べて気を養うのがよい。初めから副食を混ぜてご飯を食べると、ご飯そのものの味がなくなってしまう。あとから副食を食べれば、副食が少なくてもよい。 これは養生の観点からよいばかりでなく、貧乏に処する方法でもある。魚鳥や野菜などの副食を多く食べないで、飯の味良きことを知るがよい。野菜や肉など多く食べると、ご飯のおいしい味がわからない。貧しいひとは、副食を少なく食べ、ご飯と吸物ばかりを食べるので、ご飯の味のよさを知るばかりでなく、消化もよく害にもならないのである。


69就寝前に食滞した場合の注意

寝るときになって食物が消化せず滞り、痰がふさがったときは少消導という痰切りの薬を飲むのがよい。就寝して痰がのどにふさがるのは危険である。


70点心は食べないほうが良い

日が短いとき、昼のあいだに点心(茶うけの菓子)を食べてはいけない。日の長いときでも、昼は多く食べないのがよいのである。

71夕食と朝食

夕食は朝食よりも少ないのがよい。副食も同様に少ないのがよい。


72煮もののよしあし

煮たものはすべて煮えてやわらかいものを食べるがよい。堅いもの、半煮えのもの、煮すぎて味のなくなったもの、口に合わず気にいらないものは食べてはいけない。


73宴会での飲食

家にいるときは飲食の度合いに気をつけることができるが、招待された宴会などでは烹調(調理方法)や生熟の節(調理度合い)がかならずしも自分の気にいるとはかぎらず、また副食の品も多いの で、つい食べすぎてしまう。客になったときは、とくに飲食の節度を慎まなければならない。


74食後の力仕事

食後すぐに力仕事をしてはいけない。急いで道を歩いてはいけない。また馬を走らせ たり、高いところにのぼったり、険しい道をのぼってはいけない。


   



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