1薬と病状 病気になったら医者を呼んで治療を求める。医者には、上医中医下医の3種がいる。上医は知識と技術を持っており、これによって病気を治療する。上医は、この世界の宝であり、その功績は宰相につぐものだ。下医は、知識も技術も持っていない。それゆえに、むやみに投薬して誤診することが多い。薬というものは、人のバランスを崩す。もし薬が病気にあっていなければ、薬は毒になってしまう。 中医は、知識や技術で上医におよばないが、薬をむやみに使用することがいけないことを知っている。それゆえ、病気にあわない薬を投薬することはない。中医は自分の知らない病気に対しては、治療しない。病気にかかったときは、すぐに治療して楽になりたいが、医者の善し悪しを考えずに治療を受けると、逆に悪くなることがある。悪い医者にかかるくらいなら、自然に治るのを待つ方がいい。 2薬の濫用は危険 薬を、意味なく使うと体の調子を崩し病気になってしまう。 3庸医の薬 病気にかかっても、名医がいないときは薬を飲まず、ただ病気が治るのを待つべきである。早く病気を治したいと思って、医者を選ばないのはよくない。悪い医者は、病気にあう薬を出すことは稀である。薬は、体の調子を変える性質がある。それで病気を治療するのであるが、病気にあわない薬を服用したら治るどころか悪くなってしまう。病気の害よりも薬の害のほうが大きい。薬を用いないで、慎重に養生すれば薬の害を受けずにすみ、病気も早く治るであろう。 4良医の投薬 良医が薬を使用するときは、病人の症状をみて臨機応変にその時によい薬を使う。一つの方法にとらわれない。古い考えを、かたくなに信じてはいない。とはいえ基本をしっかりとらえないと臨機応変に対応できない。古い考えもよく、知っていることも重要である。温故知新と言う言葉のように。 5補薬より食補を 胃腸を整えておくには、普通の食事をしていればいい。薬を常用していてはいけない。たとえ高価な薬であっても、病気にあわなければ胃に負担をかけるし、食欲減退し、病気にもなる。強力な効果を持つ薬は、人の体にも負担が大きい。病気でないなら、薬を使う必要はない。ふつうの食事のほうが、体に良い。 6自然治療(治癒) 薬を飲まなくても自然に治る病気は多い。これを知らず、むやみに薬を使い、かえって病気を悪くし、食欲をなくし、病気が治らずに死んでしまうものが多い。薬を使うのは慎重にしないといけない。 7病気のはじめと良医 病気にかかったときは、始めにその病気の症状を詳しく知る必要がある。診断をして正しく病気の症状がわかるまでは、薬を使用してはいけない。間違った薬を使用すると、病気を悪くすることがある。最初に正しく診断することが大事である。それも早い時期が良い。 8衛生の道ありて長生きの薬なし 生まれもっている寿命を延ばすための薬というものはない。長生きの薬として、使われているものには効果はない。かえって体を悪くする。養生とは、生まれもった寿命を保つことである。 9薬の良否 薬屋にある薬にも、善し悪しもあるし、本物も偽物もあるから注意しないといけない。さらに薬の製法で、おなじ薬であっても違う性質になる。また、人によって薬の効果が違うこともあるので、気を使う必要がある。 土地や季節によって食事の味が違うように、人や症状や時期によって薬の調合を変えることが大事である。 10薬の煎じ方 どのような珍味でも、調理の方法が悪いと味はよくない。どれだけよい薬であっても、その調合が悪いと効果がない。新鮮な薬の材料を、短時間に、ちょうどいい温度の火で煎じるのがいい。滋養強壮的なものは、十分に熟したものを長く、低めの温度で煎じる。 11薬量 薬剤の量は、日本人の体に合わせて中国の医学書を参考にして決める。薬の量は中国の人よりも少なくて良い。現在(正徳)1:日本は中国のように薬の材料が多くなく、輸入しているものなども多いので価格が高くなる。それゆえに、薬の量を少な目にしている。2:日本の医者は中国の医者よりも劣るので、誤投与したときに問題である。などの理由で、日本の薬剤の量は中国のものよりも少な目になっている。 12日本人と中国人 日本人は、中国人のように壮健で胃腸も強くないので、薬を少なく服用するのがいい。とは言っても、体型はそれほど違わないのだから、薬の量が半分もないというのは少し理不尽である。栄養剤のようなものも、量が少なければ効くものも効かない。また病気の症状が重いときは、少ない薬ではいけない。一杯の水で、大火事を消すことができないのと、同じである。強い毒でも少なければ、毒作用は少ない。まして効果の弱い薬を少なく服用して病気が治るであろうか。現代(貝原益軒の生きていた時代)の医者は、病気にあった薬を使用するが、早く治らないのは、薬の量が少ないためではないだろうか。 ( 今は(平成)薬の量はとても多くて、必要以上に薬を使っているように思う。 ようしょうあん ) 13利薬の分量(当時のくすりです) あまり科学的ではないが、強い薬の一服の分量は5から7グラムくらいがいいと思う。その間の増減は病気の人の体格や体力で決めればいい。 14補薬の量 滋養強壮剤の一服の分量は、3から5グラムくらいがいい。のどを通りにくい時は、すこし減らしてもいい。薬と滋養の二面性のあるものは、4から6グラムぐらいがいい。これも人の体格や体力で増減させればいい。 15婦人の薬量 婦人の薬療は、男性より少な目でいい。強い薬は4から6グラム、滋養強壮剤の場合は、3から5グラムくらいがいい。気力、体力とも強い人は、これよりも多く服用する。 16小児の薬量 小児の薬の量は、1.8から3.75グラムまででよい。これも子供の身体の大小によって増減すればいい。 17薬を煎じる水の量 省略 中村学園版を参照してください。 18補薬の使用法 滋養強壮剤は、胃もたれになりやすい。そうなっては、害になるだけである。強い効果の薬を飲むときは、注意しなければいけない。 ( 略 記 ) 19身体の大小と薬量 身体が小さく胃腸も小さくて虚弱な人には、薬の量は少なくて良い。少ないといっても3.75グラムより少ないのもよくない。逆に体格もよく胃腸も強い人には多くても良い。 20小児の利薬・補薬の煎じ方 省略 中村学園版を参照してください。 21時宜にかなった服薬 省略 中村学園版を参照してください。 22日本人の薬量 今まで述べてきたような薬の分量、水の量を医学生でない私(貝原益軒)が言っているのは軽率で僭越だと言われるが、いまの日本人の体格や体力を思うとこれでいいと思う。 23煎薬と四味 煎じ薬に加える、香味料がある。甘草は毒素を消し胃腸を助ける。生姜は薬の効果を全身に早く導き、胃の負担を減らす。棗は、元気を補い胃を丈夫にする。白ねぎは、寒さや風を防ぐ。灯心草(イ草科の植物)は利尿によく効き、腫れをとる。 24泡薬の使用法 省略 中村学園版を参照してください。 25振薬の法 省略 中村学園版を参照してください。 26補薬と利薬 滋養強壮剤または栄養剤は、長く煎じると人の身体に吸収されやすくなるので良い。 また強い効き目の薬は、薬剤の成分を壊さないように生のままが良い。 27補薬の飲み方 省略 中村学園版を参照してください。 28利薬の飲み方 省略 中村学園版を参照してください。 29丸薬と散薬と煎湯と泡薬と 省略 中村学園版を参照してください。 30薬の服用 病気が身体の上部にあるならば、食後の少しずつ服用し多く飲んではいけない。中部にあるときは、食後一定の時間に服用する。下部にあるときは空腹時に何度も多く飲んで、下部まで薬がいくようにする。手足・血管の病気のときは、日中の空腹時に服用すると良い。骨髄の病気のときは、食後、夜に服用すると良い。もし、薬が飲みにくく逆流するようなら、少しずつゆっくりと飲めば良い。急に多くを飲んではいけない。 31薬を煎じる人 薬を煎じるときは、焼き物の鍋を使う。また煎じる人は、そそっかしい者にやらせてはいけない。 32薬湯・丸薬・散薬の用い方 薬を服用して五臓・手足まで効かすには、薬湯を用い、胃の中に留めおくには散薬を用い、胃腸の奥の病気には丸薬を用いるのが良い。急速な病気には薬湯、ゆるやかな病気には散薬、慢性の病気には丸薬が良い。食傷、腹痛などの急病には薬を煎じた湯、または散薬も良い。丸薬は効きめが遅いので、使用するならば細かく粉砕し使うと良い。 33中国と日本との薬剤調合 中国の医書の中の薬剤の分量を書いたものをみると、一回の服用する量がとても多い。煎じて使う薬も水の量がとても少ない。それで、とても濃い。ものによっては一回の服用する量が日本の10回分のものもある。 34中国と朝鮮の煎法 朝鮮の煎じ方も中国のものと同様である。 35煮散の法 省略 中村学園版を参照してください。 36甘草の使用量 省略 中村学園版を参照してください。 37生姜の量 省略 中村学園版を参照してください。 38棗の使い方 省略 中村学園版を参照してください。 39中国と日本との味つけ 中国の料理書に書いてある料理の方法は日本のものと違って、みな脂っこくて味付けも濃く、膳立ても甘美である。その味も重くてくどい。中国人は胃腸が強いので、このような料理もよく消化する。 日本の人はこのような料理を食べると、元気な若い人でもすぐに満腹し、消化不良になって病気になるであろう。日本人には、淡白で軽い食事がいい。料理人の腕前も、味の軽いものがいいとする者を優れた職人とする。これは中国と日本の風土や気風の違いからである。だから、補薬を小服にして甘草を少なくし、棗は少し用いるようにしないといけないのは当然である。 40煎じ薬と水の選択 薬を煎じる水は、新鮮で清らかで味の良いものにしなければいけない。早朝にくむ水を井華水という。この水で薬を煎じるのが良い。また茶や吸物を煮るにもいい。新汲水は、夜明けでなくても新たに汲んでまだ器に入れていないものをいう。これも良い。器に入れて長く時間をおいたものは使用してはいけない。 41利湯と煎じ滓 かすまで煎じていては薬の力は弱く病気が治りにくい。一度煎じたなら、かすは捨てる。 42生姜の用法 省略 中村学園版を参照してください。 43棗をとる時期 省略 中村学園版を参照してください。 44服薬と酒食と およそ薬を服用したときは、飲食をしてはいけない。また薬の効力がまわっていないときに酒を飲んだり食事をしてはいけない。そしてまた薬を飲んですぐに横になり眠ってはいけない。眠ると薬の力がまわらずに害になる。気をつけることだ。 45薬とともに食べてはいけない食物 薬を飲むときは、朝夕の食事は日頃よりも注意して選ばないといけない。脂の多い魚、鳥、獣、なます、さしみ、すし、肉びしお、塩から、なまぐさいもの、堅いもの、すべての生の冷えたもの、生菜で熟していないもの、古くてわるいもの、色と臭いがわるく味の変わったもの、生の果実、つくり菓子、あめ、砂糖、餅、だんご、胸につかえるもの、消化しにくいものは食べてはいけない。 また、薬を飲む日は、酒を多く飲んではいけない。日が長いときも、昼の間に菓子や点心を食べてはいけない。薬力がまわっているときは、食事を控えること。点心を食べると、昼間に薬の効果がまわらなくなる。ま た、死人や産婦などを見ると、気分が悪くなり薬の効力がなくなる。 46補薬と利薬の煎じ方 省略 中村学園版を参照してください。 47薬量と身体の大小と病状と 省略 中村学園版を参照してください。 48薬を煎じる器 省略 中村学園版を参照してください。 49利薬の煎じ方 省略 中村学園版を参照してください。 50解毒に水を 毒に当たって薬を用いるときは、どんなことがあっても熱湯を用いてはいけない。冷水がいい。熱湯だと毒の力を増すことになるからだ。 51中毒と応急処置 食物の毒やその他すべての毒に当たったときは、黒豆や甘草(マメ科の多年草で鎮痛・鎮咳に効果がある)を濃く煎じ、それが冷めたときに何度も飲むといい。熱いのは飲んではいけない。もし毒を消す薬がなければ、冷水を多く飲むのが良い。そして嘔吐する。これは古い時代の人が応急処置として伝えている方法である。知っておかなければいけない。 52酒と煎湯 酒を煎じる湯に加えるのは、薬を煎じ終えたときに加える。早くから加えてはいけない。 53腎臓を養う方法 腎臓は水を支配する。内臓が活発に活動すると、精液もたくさん作られる。腎臓にだけ精液があるわけではない。それゆえに、腎を助けるために腎臓の薬だけを用いてはよくない。腎は、身体の基本である。それゆえに、これが弱ると虚弱になる。腎をよく保養すべきである。薬では腎はよくならない。精気をおしむことだ。 54散薬と丸薬との効用 省略 中村学園版を参照してください。 55散薬と丸薬の効用 省略 中村学園版を参照してください。 56薬の調合と秤 省略 中村学園版を参照してください。 57香の効用 いろいろな香が鼻を楽しませるのは、いろいろな味が口を楽しませるのと同じである。香りによっては、心の平静を助け、落ち着かない心を静める。悪臭を消し、けがれを取り除き神明に通じる。ひまがあれば静かな部屋に座り、香を焚いて黙座るのは、風雅な趣が増す。これも養生の一つであろう。 香には4種類ある。たき香、掛香、食香、貼香がある。たき香とは、いろんな種類の香をたくことである。掛香とは、かおり袋、においの玉などをいう。貼香とは、花の露、軍部の長官などの身分の者がつける香である。食香とは食べて香りのいいもの、透頂香、香茶餠、団茶?などのことである。 58悪臭をとり除く 悪臭を取り除くには、オケラの根茎を乾かしたものをたくのがいい。胡すい(コエンドロの漢名、サンケイ科植物)の実をたくと邪な気持ちをなくすことができる。痘瘡のけがれを取り除くには、いろいろな草をほしてたくと、大小便の毒素をなくす。手のけがれは、いろいろな草の生葉をもんでぬりこむのがいい。なまぐさい臭いや悪いものを食べたときは、胡すいを食べれば悪臭がなくなる。いろいろな草の若菜を煮て食べれば味も良く身体にも良い。 59便秘の療法 下痢をしやすいのは、悪い。少し便秘するのは良い。老人の便秘は長寿の証である。おおいによい。だが、ひどい便秘はよくない。胃腸に食物が停滞して腹痛を起こし、食欲がなくなり、病気になる人が多い。このような人は便秘にならないように治療しないといけない。麻の種子や杏の種皮を取り去った中身や、胡麻などをよく食べると、便秘にならない。 60丸薬より早く効く薬の製法 省略 中村学園版を参照してください。 以上 漢方薬の煎じ方や効用で現代ではほとんど必要ないと思われるものは省略しました。 中村学園版に記載されております。用薬の57と58は、今で言うアロマテラピーですね 洋彰庵版 洋彰庵 利吉